糖尿病の予防・改善に効果的!「運動療法」について徹底解説(後編)

トレーナーに指導を受けながらトレーニングする男性

糖尿病は、今や日本で有病者と予備軍(糖尿病が疑われる人)を合わせて2,000万人はいると言われています。「糖尿病」と聞くと薬物療法や徹底した食事指導をイメージする方も多いでしょう。しかし、それと同じくらい大切なのは「運動療法」です。

今回は前編に続いて、糖尿病予備軍の方から実際に糖尿病の診断が降りた方の運動療法の具体的な方法や注意点を解説していきます。

【状況別】血糖値を抑える運動を行うポイント

夕暮れ時にランニングをする二人の男女

まずは、運動に対しての慣れや苦手意識の状況に合わせて上手に運動を習慣にするポイントをお話ししていきます。

長年運動していない、運動に不慣れ・苦手意識のある人

まずは15分以上歩くことを意識してみましょう。日頃歩かない人にとっては15分はつらいかもしれません。ゆっくり、のんびりとでも構わないのでまずは外に出て歩きましょう。

また時間を設定することに息苦しさを感じる場合は、目標値を歩数に変えても良いでしょう。今はスマホアプリでも歩数をチェックできますから、まずは1日5000歩以上を目標に習慣化していきましょう。そこから徐々に増やしていけると良いですね。

体を動かすことは好き、苦手意識のない人

運動や体を動かすことが好きで、スポーツジムに入会したり出来る方は習慣化するためのモチベーションの維持に気をつけていきましょう。無理のない範囲でご自身にあった「運動プログラム」を継続していくのが重要です。
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★血糖値を下げる「運動プログラム」とは

・最大酸素摂取量50%強度前後の有酸素運動をなるべく1時間以上
・適度な筋力トレーニング
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「最大酸素摂取量50%強度」を心拍数から求める簡単な公式は【最大酸素摂取量50%強度心拍数=138-(年齢×0.5)】です。

例えば50歳の人の場合「138-(50×0.5)=113拍」となり、113拍前後の心拍数の有酸素運動を1時間以上行うということです。強度の強すぎる運動は逆効果となります。

また、心拍数は徐々に上げていき終了するときも徐々に下げていきましょう。一気に上げて急に止めてはいけません。終了時のクールダウンも忘れないようにしましょう。

「糖尿病」と医師の診断が降りた人

最後に、すでに「糖尿病」であると医師から診断が降りた人は医師の同意の元で運動療法を行う必要があります。糖尿病の数値には幅があり、インスリンや下降薬投与の有無も運動量に関わってきます。

この記事の一番最後の項にて詳しく解説をしていますのでそちらも読んでみてください。

糖尿病予備軍の運動療法で取り入れやすい運動の種類

木漏れ日の中サイクリングをする男女

ここからは血糖値が高めの「糖尿病予備軍」の方が、習慣化しやすい運動を具体的に紹介していきます。まずは、ゆるやかな長時間運動を楽しめるようになりましょう。

ジョギング(ウォーキング)

最も取り入れやすい運動方法がジョギングやウォーキングです。自宅近くから始められて、距離や運動強度の調整もしやすいです。心拍数計を身につけて取り組むと良いでしょう。最近では腕時計型のデバイスで心拍数を計ってくれるものもありますよ。

エアロバイク

比較的どのスポーツ施設にも置いてあることの多いエアロバイク。機械を置く広さがあれば自宅でもテレビを見ながら行うことができます。最近では手で握って心拍数を測定する機能が大抵ついていて、握ることで測定することができます。また、自身の腕時計型の心拍計で測定しながら運動するのもいいでしょう。

水中ウォーキング(水泳)

泳ぐことが好きな人や、苦ではないという方は水泳や水中ウォーキングもおすすめです。水中ウォーク、水泳では途中で止まって手首か首筋に手を当てて測ってみて下さい。水中では陸上より心拍数が低く出ますのでそのことを考慮してください。息が上がらない程度に、ゆっくりと、リラックスして泳げると良いです。

エアロビクスダンス

多くのスポーツクラブでは「エアロビクスダンス」のクラスがあります。踊ることや音楽が好きな人は最寄りの教室に参加してみるのも良いでしょう。その際は体験レッスンなどで、できれば心拍数計を装着し強度を測ってみてください。

心拍数が上がりすぎるようだと、そのクラスは強度がきつすぎるのでやめておきましょう。強度の低い初心者向けクラスがあればそのクラスから始めるようにしましょう。体力がつくと心拍数も上がりにくくなります。

糖尿病予備軍の運動療法と「筋トレ」

重いダンベルを持ち上げる筋肉質な男性

続いては、血糖値が高めの「糖尿病予備軍」の方が習慣化しやすい筋力トレーニングを具体的に紹介していきます。

糖尿病予備軍のための「筋トレ」の予備知識

まずは、筋トレを効率よく行えるように簡単な予備知識を頭に入れておきましょう。

筋力とは

「筋力」とは筋肉が発揮する力のことです。それは「筋肉の大きさ」と「筋肉を動かす神経の働き」で決まります。「筋肉を大きくする」にはトレーニングに慣れた上での、それなりに強めのトレーニングが必要です。

「筋肉を動かす神経の働き」はある程度のトレーニングで比較的早く効果が現れます。筋力トレーニングによって「筋肉が大きくならなくても、神経の働きがよくなることで筋力は向上する」ということは覚えておきましょう。

赤筋と白筋

 筋肉はその特性として大きく「赤筋」と「白筋」に分けられます。
「赤筋」とは筋肉の中で持久的な働きに関与します。力は小さいですが長時間の動作に必要な筋肉です。「白筋」は大きな力、瞬発力の発揮に関与します。大きな力を発揮しますが持続時間は短い筋肉です。

血糖値を下げるのに効果的なのは「赤筋」を鍛えることと言われています。

筋肉と血糖

筋肉を動かすエネルギー源は「糖質」と「脂質」です。身体を動かせば筋肉が動き「糖質」が必要になります。血中のブドウ糖(血糖)が筋肉に取り込まれ血糖値が下がるという仕組みです。よって筋肉量が多く、また筋力が強くたくさん動くほどその効率もよくなります。

血糖値を下げるインスリンの働きも身体を動かすこと、筋力が向上することでよくなります。そして先述した「赤筋」が活発に動くことがインスリンの働きをよくします。以上のようなことから血糖値を下げるには筋力トレーニングが必要なのです。

糖尿病予備軍が「筋トレ」を行う際の注意点

糖尿病予備軍の方が「筋トレ」を行う際には、必ず運動強度に気をつけましょう。

力むようなウエイトトレーニングは血圧を急上昇させます。血糖値の高めの人は血圧も高めの場合が多く身体に悪影響を与えます。最悪の場合、不整脈や眼底出血の危険性もあり大変危険です。

適度な筋力トレーニングは神経の働きをよくし筋力を向上させます。それにより、筋肉への糖の取り込みがよくなり血糖値が下がります。また、筋持久力に関係の深い赤筋が鍛えられインスリンの働きがよくなりますので血糖値を下げる運動、またそれに限らず「健康のための運動」はきつくない「適度な強さの運動」で十分効果があるのです。

糖尿病に効果的な「筋トレ」3選

糖尿病予備軍の方におすすめしたい筋トレは「レッグスクワット」「腹筋」「プッシュアップ」です。どれも簡単にできるものばかりなので、できそうなものからトレーニングしてみましょう。なお、行う際は「呼吸」を忘れずに行ってくださいね。

レッグスクワット

・手を頭の後ろ

・手前に

・手を脚の付根に

 

腹筋のトレーニング

・椅子に足を乗せたフォーム

プッシュアップ(腕立て伏せ)

・プッシュアップ(腕立て伏せ)

「糖尿病」と診断された場合の運動療法とポイント

丁寧に患者に説明をする男性医師

ここからは、すでに「糖尿病」と診断された方向けの運動療法をお伝えしていきます。運動強度としてはこれまでお伝えしてきた内容を行えば問題ありませんが、すでに診断が降りている場合には追加で気をつけて欲しいことがありますのでまとめました。

【重要】「糖尿病」の診断で運動療法が適応される条件

「糖尿病」と診断された場合には、全ての人が運動療法実施を前提にした「メディカルチェック」と「医師の指示」を必ず受けるようにしましょう。

糖尿病は症状や原因がその人によって千差万別で、数値にも幅があるためです。血糖値の他、合併症の有無、生活習慣、年齢、体力等の個人差が大きく影響します。

空腹時血糖250ml/dl以上の場合や、合併症(網膜症、腎症、神経障害等)のある場合は基本的には運動療法は適応しません。糖尿病の場合、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)も懸念されますし、血糖値の数値が悪化する恐れがあるためです。

しかしながら、合併症も軽ければ運動療法を実施できる場合もあります。医師としっかり相談し、どの種類、どの程度の運動が可能かを把握してください


「糖尿病」診断時の運動療法で気をつけるべきこと

先述の「医師の指示をしっかり受ける」という基本事項を踏まえたうえで、運動療法に取り組んでも問題がない場合には下記のことに気をつけながら進めていきましょう。

①食後1時間後に運動するのが理想的

血糖値は食後1時間後くらいが最も高くなります。その時に合わせて運動をすることで高血糖を抑制します。2時間後でも、30分後でも問題はないですが食後1時間後に行えると理想的です。
反対に空腹時(食前)の運動は低血糖をおこす可能性があるので避けましょう。糖尿病と診断された場合、特に血糖降下薬やインスリン治療をしている場合は低血糖に十分注意してください。

②「ブドウ糖」を常備する

低血糖とは血糖値が基準以下に低くなることです。気分が悪くなり、震えや意識喪失、最悪の場合は昏睡状態にまで陥ります。低血糖を予防するために不可欠なのが「ブドウ糖」です。病院や薬局でブドウ糖のタブレットは売っています。医師に確認し購入してください。
運動をしていて気分が悪くなったり、あくびが出る、震えがあるなどの異常を感じたら「ブドウ糖」を摂りましょう。低血糖は運動中だけではなく運動後、数分後、数時間後にもおこります。十分注意しましょう。
症状が良くならない場合は、早めに医師に診てもらいましょう。

③インスリン投与時は運動療法の内容を医師に伝える

運動をしている時としていない時では薬の投与量が変わってきます。薬の量や内容が合っていないと低血糖を引き起こす可能性があるため、運動療法を始める際はもちろんのこと、運動プログラムを変更した場合も必ず医師に伝えてください。

④水分補給を忘れない

糖尿病の人は血液中のブドウ糖が多くなります。そのため一般の人よりも脱水になりやすい状況にあります。水分補給をしっかり意識しましょう。運動を始める前にも十分な水分補給を忘れないようにしましょう。

⑤足の裏のチェック

神経症が合併していると傷が治りにくくなります。足の裏に傷があるのに気づかずにいることがあります。放置していると壊疽になる場合があるので、こまめに足裏をチェックし、兆候があれば直ぐに医師に診てもらいましょう。

⑥自分で血糖値の測定をする

家庭でも簡単に血糖値が測定できる「簡易血糖測定器」があります。最近ではAmazonなどの通販サイトでも販売されています。持ち運びしやすいものも売られています。詳しくは、医師に聞いてみてください。

【まとめ】糖尿病の予防・改善は積極的な運動療法でアプローチしよう

夕暮れ時にランニングする三人の若者

糖尿病治療は血糖値をコントロールして合併症を発症させないことが重要ポイントです。ここでは運動療法について述べてきましたが、食事をはじめとするその他の生活習慣の改善が絶対に必要です。

文中でも何度も触れましたが必ずメディカルチェックを受け、医師の指示を仰いでください。スポーツクラブ等で運動する時は必ず自分の状況を指導者に伝え、専門知識のある指導者に教えてもらいましょう。

また、糖尿病と診断されても生活習慣と運動で改善が期待されます。糖尿病に限らず生活習慣病といわれるものは予防改善に運動療法が有効です。ぜひ運動習慣をつける工夫をしてください。そのためにこのサイトがお役に立てれば嬉しいです。 

筆者プロフィール

大塚聡 / パーソナルトレーナー(株式会社サミープロジェクト)

株式会社 サミープロジェクト代表取締役
サミーコンディショニングスクール代表
一般社団法人日本生活体力推進協会代表理事

1961 年5 月生まれ
早稲田大学教育学部体育学専修卒
早稲田大学大学院人間科学研究科修了(体力科学専攻)
フィットネスクラブ指導責任者、経営責任者を経て独立
株式会社サミープロジェクトを設立し現在に至る

資格

人間科学(健康科学)修士
教育学士
NSCA-CPT(パーソナルトレーナー)
CSCS(ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)
日本体力医学会健康科学アドバイザー
厚生労働省ヘルスケアトレーナー
中学・高校保健体育教員ら
国際救命救急協会救急心肺蘇生法取得者

主な企業フィットネス実績

・ベネッセコーポレーション高齢者身体づくり教室監修
・日本商工会議所主催生活習慣病予防改善セミナー全国各地にて講演
・モーリスコーポレーション健康事業顧問
・ライオンズクラブ健康セミナー
・公立高校における親子健康セミナーなど、企業の健康関連部門においても多数活動